ミソシタのライブに行ってきた
ライブとは即ち〈共振〉である。…とライブに行った経験は片手の指で数え切れる程しかないなりに考えている。
例えば手持ちの携帯なりオーディオプレイヤーなりで音楽を聴くとしよう。好きな曲の歌詞や旋律を脳で処理して発生した多幸感を言語化する際には「心が震える」「魂が揺れる」などの表現が用いられることが多いように、音楽と呼ばれる空気の振動はその力で人の精神を揺さぶることが出来ると一般的に認識されている。
しかしその効果は一方的である。発生した精神からの振動は基本的には何処にも影響を及ぼさない。当たり前の話であるが機械には人の魂の揺れ動きを読み取ってその動作を変化させる機能は搭載していないからだ。
ではライブではどうか?
演者から発せられる振動がまず観客の精神を揺さぶり、それがいわゆる「縦ノリ」に代表されるような身体動作として発現する。次にこうした観客の振動はまた別の観客に影響を及ぼし、そして同時に影響を受けてその振動を増大させていく。こうして生まれた観客全員の総意と呼ぶべき巨大な振動は、最終的に演者の元に帰ってくるのだ。それを受け取った演者はそれに応えると言わんばかりに曲に大きく感情を乗せていく…。このような″振動のスパイラル″*1と呼ぶべき現象があると考えているため、僕はライブを〈共振〉と表現した。
そしてそれは間違っていなかったことを、バーチャルユーチューバー・ミソシタのライブで認識した。それどころか、そのライブには〈共振〉以外にも、多数の「キョウシン」が存在していた───────。
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えなたかです。ミソシタのライブに行ったら最高だったので、初期衝動に頼りながらテクノロジーに情熱を預けて闇をレンダリング(要するに鉄が熱いうちに感想をブログに記していきたい)していこうと思います。
・ミソシタとは?
ポエムコアを搭載したVtuberです。
詳しいことはこちらのkai-youさんの記事を読めば大体わかるのでそちらに任せます。
当記事を読むに際して『ヘンリーダーガー』『革命前夜』『ミッドナイトファイティングブリーフ』の三曲の動画を視聴しておくことを強く推奨します。なんならこの記事を読まなくても推奨してます。この三曲はミソシタの作品の中でも名作と名高いもので、いずれも彼の不屈でブレが無い、言わば〈強芯〉を漏れなく表したリリック、ライム、フロウに、哀愁と内奥からの″闇″を漂わせた美しい旋律を乗せた曲を、真っ青でテカテカしてておっぱいがあって頭が長くて声がかっこいい謎の生き物が木馬に乗ったりしてる前衛的なMVと共に楽しめるのでオススメです。
・行ってきた
「月見ル君想フ」という名前のライブハウスが会場でした。
名前の時点でめちゃくちゃオシャレで案の定外装もかなりオシャレだったため、キモオタである僕は近づいただけで浄化され光の塵になってしまいました。皆さんもキモオタチェッカーとして一度このライブハウスの門を潜ってみるのがオススメです。嘘です。
色々なバンドが演奏していき、待ちに待ったミソシタの出番がやってきました。
前回のミソシタライブの体験記を参照しているとステージとそこに最も近い観客スペースが「地下二階」に位置しているという情報があり、それを確認して即座にブチ上がりました。
そして証明が暗くなり、中央のスクリーンにミソシタが映し出されました。若干悲鳴混じりの歓声が上がります。ライブハウス。アンダーグラウンド。集まったな、地下二階の同士─────!
・ヘンリーダーガー
一曲目は『ヘンリーダーガー』でした。前回のライブの後に公開されたものなので、当然ライブでは初披露ですね。
こんな感じです
それは言うなれば〈凶針〉。僕のようなミソシタ目当ての人も、共演者目当てで何となくミソシタも聴きに来た…そんな人にも等しく突き刺さり、心を射止め、MISOの思想に釘付けにさせるような、そんな力を持っていました。
ヘンリーダーガーみたく自分で創る。非現実の王国は自分で創る────。その歌詞通りに暗闇の中で独走的にバーチャルへの逃走の結果である自己を表現し観客を沸かせる様は、まさしく″非現実の王国を創り上げた″と形容すべき″闇″の輝きそのものでした。
俺のヒーローは ヘンリー・ダーガー
…ミソシタすまねえ、俺のヒーローはヘンリーダーガーよりもミソシタなんだよな………。
・ミソシタ相談室
今回のライブの目玉(?)と予告されていた″人生相談ポエムコア″です。事前にファンから募っていた人生相談に回答する形でポエムを詠むのですが、「やっぱりギャルからの相談は少なく、無職中年ガリガリ童貞からの相談が多かった」と心底悲しそうに嘆いていたのが印象的でした。こんなことなら僕も相談投げれば良かったですね。何故なら僕はギャルなので……。
人生相談は当然の如く低俗な事象に絡めたものが多く、ミソシタはそれを優しく受け止めてなおかつキレッッキレなオモシロ解答をぶん投げていました。終始会場は大爆笑。僕もゲラゲラとアホみたいに爆笑してました。
しかし。一見ただ面白おかしさを演出するためのポエムの中にも彼の正確で鋭角で明確な思想があり、僕はそれを垣間見た…ような気がしました。
「21歳の童貞です。朝起きたらちんちんになっていました。どうすれば元の姿に戻るでしょうか?」という質問を「下ネタ送るにも、もっと捻ってこい」と一蹴してのけたのに対し、「女性ですが、同性に罵られるためにはどこにお金を払えばいいですか?」という質問に対しては真摯に受け止め、しっかりと時間をかけて性癖の闇深さや欲望への付き合い方などの自論を述べ、明瞭な答えを示しました。
この対応の差はすなわち、ミソシタの中では「下ネタ」と、ポエムコアの構成要素である「スケベ心」は違うことを示しているのではないか────?と僕は考えました。この境界線を明確に区別し守ろうとするプライド、つまりは彼の〈矜心〉であり、質問への態度のケースにおいては「単純なウケ狙い」か「内奥の闇からの漏出」かを判断した結果だったのではないか…?なんてことを想像して1人で盛り上がってました。
ちなみに前者への回答は無く、ただ「どうぞ自由にシコってください。」とだけ言い、次に移行しました。対して後者へは前述したように様々な考えを述べて″溜め″を作った上で、最終的に「口うるさいババアが仕切る惣菜店でバイトするのはどうだろうか。金も貰えて一石二鳥だ。」と回答。一番わらった。ずるい。
・革命前夜
ライブ前、バーチャルユーチューバーのライブに行く旨を人に伝えた際に、「バーチャルなのかリアルなのかよくわからない」と返されました。
その答えが『革命前夜』。ミソシタの創り上げた世界観。それを最も端的に、象徴的に表したフレーズ。それは。
Realじゃないが Fakeでもない 俺らはVirtual……。
歌い上げられた瞬間、オタク、高まりのあまり ──────────号泣。
彼は行き場失ったスケベ心をライブハウスに解放し〈強震〉を起こしました。
・ミッドナイト・ファイティングブリーフ
人の闇は笑うな。だが俺の闇は笑え────。
ミソシタ、もとい彼の″親″であり″魂″を有しているBOOL氏が提唱する「おもしろダークネス」、ひいては「ポエムコア」の概念を象徴する前口上でその曲は始まります。
セトリが『人生相談』→『革命前夜』→『人生相談2』→『ミッドナイトファイティングブリーフ』の順であったため、『革命前夜』で熱しきった僕の頭は人生相談で爆笑することによって一旦クールダウンしましたが、この時点で再加熱。全身の血液は沸きあがり、昂ぶり涙をボッロボロに零しました。
この曲は〈共進〉でした。
MVでミソシタは進みます。木馬に乗って、地下二階をただ真っすぐに進み続けます。「やり続けるだけ これしかできねえ」「走るしかねえんだ…」の言葉通りひたすらに。そんな彼の生き方をポエムコアに不足なく落とし込んだ作品に、観客は〈狂信〉に近い共感を覚え、
ミッドナイト・ファイティングブリーフ 真夜中戦うこっからが勝負
ミッドナイト・ファイティングブリーフ シコっても寝ないこっからがDOPE
このサビ部でミソシタと同じように左手を掲げ、木馬の上で揺れているかのように身体を前後に揺らします。ミソシタと共に進みたいと思えたから。地下二階の同志達が左手を次々と上げ、下げて、また上げる。その光景は、まさしく〈共進〉そのものでした。
・おわった
茫然自失してました。いずれの曲も投稿されたものは割とクールな歌い方で、ミソシタそのものにも冷静なイメージを抱いている人は多そうですが、ライブのものは〈共振〉がもたらす効果なのか、通常よりも感情的に歌い上げていてめちゃくちゃにカッコよく、″最高″以外の言葉を忘れました。そのため帰りに寄ったコンビニでレジ袋の有無を問われた際も「最高………」と店員に返してしまいました。とても反省してます。何故なら本来はここで「ポエムコアを知っているか?闇の中で流行っている」くらい言うべきだったので…。
最後に次回のライブの告知(6/23に下北沢でやるそうです)をした後、ツイートや各種ブログの執筆で感想を拡散するように指示しました。元々ブログのネタ目当てでもあったので予定調和ですね。書きました。
そしてミソシタは「闇の中でまた会おう。それまでは…生き延びてくれ。」と言い残し、去っていきました…。
…………じゃあ僕も生き延びてみようかな!!!!!
参考
*1:これは俗にいう″グルーヴ″という言葉が意味する事象の一つらしいが、その定義が曖昧であるため便宜的、かつ狭義的にこれを設定した。